看護を支える家族の力と医療者として思うこと。

2019.01.07

今回は患者さんの娘さんの結婚式に同行させていただいたことを書きます。

Iさんは、神経難病により気管切開を行っており、ADLは全介助の状態です。主に奥さんが介護しており、近くに息子さんご夫婦もお住まいです。今回は長女さんの結婚式が行われるということで、牧丘病院の古屋部長の提案で医師と私で同行させてもらいました。

まずご自宅に到着すると、いつもの訪問看護師さんが来られ、モーニングに着替えて準備。
奥さんがこの日の為に作ったお手製のチューブホルダーと素敵なスカーフを身に着けられました。
奥さんは急いで美容室に行かれる前に、私たちに準備している物品を教えて下さいました。ここで驚いたのは、あらゆることを想定して、医療者でない奥さんが完璧に準備されていたことでした。

気管切開チューブはもちろん、カフ用シリンジやキシロカインゼリー、BVM、呼吸器のバッテリー、SPO2モニター、手袋やエプロン、内服薬と胃ろうの注入セット。あとあと気づいたのは、お料理が飲み込めないご主人の為、味だけでも楽しめるようにとガーゼも用意されていました。しばらくして、神社で式を終えられた娘さんが到着し、声をかけられると、閉じていた目をしっかり開かれこの一枚!

その後式場へ息子さんの車で移動。車内には、バッテリーがあり、コンセントを差し込んで吸引機を使いながらの移動でした。Iさんは、普段は長時間座位になることはないですが、今回ばかりは娘の晴れ舞台ということで頑張られたのか、自然と力が湧いたのか、呼吸器を装着しながらも約3時間の式をほとんどリクライニング車椅子で見届けられました。そして、多くの方が関わり開発された、『嚥下酒』!おめでたい空間で、奥さんに口に運んでもらった時の表情をみて、私は医療者としてこの場に立ち会えて、こんなに幸せなことはないなと思いました。少しのつもりが、何度もおかわりされていました。

ご家族は私たちよりも、Iさんの状態をしっかり把握されていて、「ごろごろいってるけど、今は苦しくないよね。」「表情が険しいけど、ちょっと疲れた?」と些細な変化を捉えていたり、私たちが娘さんの晴れ姿を!とどうにか目を開こうとしてもびくともしないのに、いとも簡単に目を開かせたり、コミュニケーションを図られたりしていました。緊張していた私も、ご家族のおかげで、ただ日常業務を式場で行ったという感じでした。

ある先生の言葉を借りるなら、在宅では医療者でないご家族が、介護、看護、さらには医師の役割を最前線に立って果たしている、それをサポートしているのが私たちということなのかもしれません。どこまで担えるかは、そのご家族によってそれぞれだと思いますが、足りない部分を補ったり、ご家族が安心して本領発揮できるよう支えられる医療者になりたいと思いました。またもや、貴重な機会をいただき、Iさんとご家族をはじめ、Iさんに関わられている医療スタッフの方々に、心から感謝いたします。

山梨市立牧丘病院  吉田裕香

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